夕日


「ねえ、生まれ変わっても一緒にいてくれる?」

ソファーで夕日を眺めながらくつろぐ拓馬の隣へ妻、輝美がやってきた。

四月一日、拓馬五十才の誕生日である。輝美も小学校時代からの同級生なので同い年だ。輝美は小脇に何かアルバムのような物を抱えながら、拓馬の左側に座った。そして下から見上げるように拓馬の顔を見た。

拓馬は身長が185cmもあるが輝美は150cmと身長差が大きい。一緒に座ると輝美は拓馬の腕の下に抱えられるように入ってしまう。

「あなたの声が好き」そう言って輝美は拓馬の胸の辺りに耳を付けた。

輝美は趣味で活動するピアニスト。本当に耳がいい。音には敏感なのであった。拓馬はハーフっぽい顔をしているのだが、日本人である。体格も良くスポーツ大好きな中年男性だ。

「生まれ変わってもって 何かあったのか?」少々戸惑いながら、低めのトーンの良く響く声で拓馬は聞き返した。

「ん~~ この声 直接響いてくる ステキ♪」そう言いながら輝美は顔を上げた。

「ううん なんでも ただ聞いただけ」と輝美は目を細めながら微笑んだ。

優しく微笑む輝美の瞳にはこれまで何度も拓馬は救われて来たのだった。お酒を呑めない拓馬は、会社で理不尽な目に遭わされても発散できず、げっそりしながら帰宅する事が多かった。

そんな拓馬を輝美の瞳が出迎えると何故かパァ~っとストレスが消えていくのだ。輝美に見つめられると不思議な魔法にでもかかったようになる。かれこれ四十年位この瞳の魔法にかかったままの拓馬であった。

「もう俺たち五十才になっちまったなぁ、また次の人生でも君と出会えたら嬉しいな」低めのトーンの声で拓馬は輝美の瞳を見つめながら答えた。輝美はその言葉を聞くと拓馬の体を更にぎゅっと抱きしめた。

「嬉しい」輝美の瞳から涙が流れる。その涙は夕日に照らされて黄金色に光っていた。

輝美は小脇に抱えていた昔のアルバムを出して、拓馬に寄り添ったまま開いた。

「ねえ、これ覚えてる?」
輝美はセピア色になっている写真を指差した。中学生の頃の写真だ。そこには文化祭で演劇をしている水野美沙が写っていた。

美沙は当時学校ではマドンナとして常に注目を浴びていた。端正な顔立ちでお嬢様という言葉が似合う女性であった。言葉遣いも丁寧で誰とでも分け隔てなく笑顔で話す とびきりの美人だ。

拓馬は小学生の頃から美沙が気になっていたのだが、あまりにも美沙が綺麗過ぎて、ほとんど話かける事が出来なかった。

輝美は懐かしそうに「美沙、きれいだったよね~」と写真を見つめて呟いた。拓馬も懐かしそうに眺めながら「あぁ、そうだな~懐かしいね~」と穏やかに答えた。

輝美が「ふふっ」と笑いながら拓馬の方を見て言った。「あなた 美沙の事 好きだったでしょ」と目を細めながら笑った。拓馬は中学生の頃の事を思い出しながら「美沙は当時みんなのマドンナだったからね」と笑いながら輝美の方を見ていた。

しかし拓馬は当時、美沙に振られてショックを受けた事を思い出していた。そんな事は輝美には言えない。穏やかな雰囲気を醸し出したまま、平然としていた。

輝美は更に目を細めて、笑いながら拓馬に言った。「美沙に告白して振られたでしょ」拓馬の心臓がドクンと大きく脈打った。拓馬は笑顔なのだが目が、輝美を見たまま、目が大きく見開いて固まっている。時間が止まった・・・

そんな表現がしっくりくる一瞬であった。どの位時間が経過したのか分からない。拓馬は動揺していた。

「な、なんでその事を知っているんだ?」拓馬は今度は真顔になっている。

輝美は「うふふっ」とまた笑いながら「だってその時ね、私隣の部屋にいたんだよ。聞こえちゃったんだもん」と嬉しそうに話した。

「参ったな・・・」拓馬は今度は少しバツが悪そうに輝美を見た。そんな拓馬の動揺など意に介す事も無く輝美は言葉を続けた。

「でもね、あなたが美沙に振られた時、小さくガッツポーズしちゃったの」

「!」
心の中で(可愛い)拓馬はそう思った。もう五十才になるのだが、本当に輝美はいちいち可愛いのだ。拓馬はもうどうしていいのか分からなくなり、照れも隠したいしと、輝美の頭を両手で抱えて抱きしめた。

抱え込まれた輝美はそのまま「きゃー 照れてる あはははは~」と笑っている。完全に輝美の掌の上で踊らされている拓馬であった。

拓馬は美沙に振られた後から、なぜか気が付くといつも輝美が傍にいた事を思い出した。(あの時も、そうあの時も、そう 思い出してみるといつもだ)そんな事を思いながら、そう言えば高校も同じだった。

当時はそんな事気にもしていなかったが今考えると少々不自然に思えてきた。「輝美、お前俺と同じあの高校を選んだ理由って、もしかして・・・」とまで言うと、すかさず「そうよ」と帰って来た。

ここまで来てようやく輝美の思いを昔に遡って理解した。「そうだったのか~」と言いながら拓馬は輝美の頬を両手で支えるように持ち、輝美の顔を自分の方へ向けた。

吸い込まれそうな瞳がキラキラ光りながらこちらを見ている。五十になっても拓馬はメロメロになっていた。

「生まれ変わってもまた一緒になろうな」と言うと輝美は「うん 約束ね」と言うと、しばらく見つめ合い、拓馬は輝美の頭を自分の胸の辺りへ引寄せた。部屋中が夕日で赤くなったソファーに二人で座り、外を眺めていた。

つづく・・・




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