WS002339


拓馬は小学生の頃の自分を思い出そうとしていた。しかしどうしても思い出せない。中学生の頃からはかろうじて思い出せる位だが、小学生時代はどうしてもほんの少し細切れ程度しか思い出せない。

あの頃何を感じて、何を思っていたのか、大人になって覚えていない。それなのに今、自分は夢かもしれないが実体験に近い状態で体験している。
「だめだ、本当に思い出せない」

ふと二十代の頃を思い出した。

「そういえば、若い頃はバンド活動ばかりしていたな」拓馬は大の音楽好きである。でも当時本当に上には上がいて歯がゆい思いをした事も思い出した。

もっと子供の頃から楽器を練習していれば、と何度も思っていた事も思い出した。まてよ、本当に小学生からやり直せるのなら今から楽器を練習したり音楽を勉強しておけばもっと上手くなって楽しめるかもしれない。

自分の人生で後悔していた事をやり直す事が出来るかも。そう考えだしたら拓馬は元気が出てきたのであった。

それにしても・・・
いつ元の人生に戻れるのだろうか? いつ目が覚めるのだろうか?

自分が五十才の頃、あの夕日を見ながらソファーに座っていた後の人生はどうなっているのだろうか?
次々と疑問が湧き上がり、なぜこんな状況になってしまったのかという理由も見当たらず、また考え込んでしまった。こんな事を拓馬は繰り返していた。

しばらく考えた後拓馬はまた考えが戻って来た。
(よし、夢の中だとしても実体験のようにリアルに体験できるのだから、人生で後悔になっていた事をやり直してみよう。)

(夢が覚めたら覚めたでいいじゃないか)

今度は本気で決断したようで、がぜんやる気が出てきた。

「よぉし、いっちょやったるぞ~」
「さて、何から手を付けようか」

一人で声をだして気合を入れていた拓馬であった。

教科書をパラパラ見てみたところ、五十才の知識が困る事は何も無かった。

「当分学校の心配は無いな、さて何しようか」自分の部屋をぐるりと見まわしてみてもこれといって何も無い。昭和四十年代なのだ、オーディオとかがあるわけもなく、楽器もラジカセすら無い。何もすることが無かった。仕方がないので居間へ行ってみた。

「ブラウン管のテレビがある!)「レトロだ・・・」

テーブルの上に新聞が置いてあるのを見つけたので、手に取って見てみた。

昭和四十二年四月一日
(四十二年かよ~)

「ん? 四月一日? エイプリルフール?」「神様のイタズラ? んな、まさか」

この当時の事など何も覚えていないので へぇ~ と感心して読んでいた。
本田技研がN360発表? スバル360? 「そんな時代だったのか」

改めて自分が今いる時代の状況を驚きながら見ていた。結構面白いと食い入るように見ていた。

ふと誰かの視線が気になって顔を上げて左を見たら・・・

(あ・・・)

母が固まったままこちらを見ている。目がまんまるで口が開いている。

しばらく時間が止まった・・・
そして母が気を取り直して

「ちょ ちょっと拓馬 あんた何してるの? 新聞読んでるの?」

思い切り困惑の表情である。

そして小走りで拓馬の隣へ駆け寄って来て、拓馬の前でしゃがんで顔を見ている。

拓馬も固まったまま冷や汗が つーっと流れた。

(まずい・・・ よし、とぼけよう)

「かんじばっかりで なんにもわからないや ははは」思い切り笑顔で拓馬は答えた。

母は安堵したのか「そりゃそうよね~ あ~びっくりした はぁ~」

と言って腰を振りながらキッチンへ戻って行った。


つづく・・・第五話(5/42) 情報収集


 

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