小学校


懐かしい小学校へ到着した。
「学校が新しい!」思わず声が出た。そして下駄箱のある玄関へ来た時ふと思った。

(はて、1年生の時って何組だっけ?)
拓馬は急いでランドセルを開いて、何かヒントになりそうな物を探した。とりあえず手に触れた筆箱を取り出してみた。

するとそこには鉛筆1本1本に小さなシールが貼られており、小さな文字で「1ねん2くみ たくま」と書かれている。その文字を見た時、子供の頃の事なんてまるで覚えていないのだが、「こんなに細かく手書きで名前を母が書いてくれたんだ」と思い、書かれたシールを見て、感動しながら眺めていた。

「拓馬!何やってるのこんなところで!」

感動は一瞬でぶっ飛び、自分がマヌケな事をしている事に気が付いた。猛烈に恥ずかしくなってしまい、あたふたしながら筆箱をランドセルに押し込んだ。

体育館では無事入学式が終わり2組の教室へ入ると、大きな黒板には「しんにゅうがく おめでとう」とチョークで書かれて花のイラストで囲まれていた。

机の上に名前の書かれた紙が置かれており拓馬は自分の机に辿り着くことが出来た。まずは座ってみた。

「ちっさ!」座ってみたら自分が物凄く小さいという実感が湧いてきて一人でニヤニヤしていた。

またふと我に返った。
「面白いな。リアルすぎる。長い夢だし、まだ続いている。」

拓馬は少し不安になったが、もう少しこの夢を楽しんでみようと周囲の雰囲気に合わせてみる事にした。

担任の先生が話をし始めた。物凄くゆっくり話している。そして順番に名前を呼んで、呼ばれた子供が元気に「はい!」と返事をして手を挙げた。全て呼び終えると持ち物の説明とか注意事項とか色々話している。

しかし、拓馬はそんな先生の話を聞いてはいるが、他の事を考え始めていた。

「面白い、もしこれが夢でなくて本当に小学生に戻ってしまったとしたら・・・」

まあ、どこかで覚めるだろうと楽観しながらも五十才だった自分の知識を持ったまま小学1年生からスタートなら楽勝ではないか。ま、そんな事はあり得ないだろうけど。

でも、勉強なんて全部知っているから天才とかって呼ばれてしまったりして、とバカな事を考えていた。でも夢の中の出来事なので、何でもありだろとイタズラ心も湧いてきたりと、またニヤニヤしていた。

そして学校初日も無事終わり家に戻った。母がおやつのケーキを出してくれて一口食べてみた。

「甘!」昔のケーキは物凄く甘いという事を思い出した。それにしては味覚もそうだけどこの感じは夢とはちょっと違うのではないだろうか?

小さな体に徐々に慣れてきた拓馬は、今自分は夢の中にいるのか現実の世界にいるのかわからなくなってきていた。

慣れないことをした一日だったので疲れが出たようだ。急激に睡魔に襲われて来てケーキを食べながらうとうとし始めた。そんなぼんやりした意識の中で「あ、もしかしたらこれで次目が覚めると元の世界に戻っているのかな」となんとなく思いながらテーブルに伏せって寝てしまった。

ふと目が覚めた。
ソファーに横になっている自分に気が付いた。薄手のタオルケットがかけられている。
(お~ 戻ったか)と思ったのだが、自分は小さいままだ。

おかしい、まだ夢の中だ・・・

「目が覚めたのにまだ夢の中だ、夢の中で夢を見ているのか?」

拓馬は混乱しながら必死に考えた。どう考えても変だ。自分の太ももをつねってみた。
猛烈に痛い・・・

「あれれ?夢じゃなさそう・・・」
何がどうなっているのか、状況が理解できなくなり焦りと不安と元の世界へ帰りたいという気持ちが一度に襲ってきてガタガタ体が震え出した。

「どうなってる! なんだこれは!」
自然と声が出た、しかし自分に聞こえてくるその声は明らかに子供の声だ。
「あ~~~~~~~~~~」

その声を聞いて拓馬の母が走って来た。
「拓馬!どうしたの? 何か怖い夢でも見たの?」

そう言いながら拓馬を抱きしめたが、拓馬はガタガタと体の震えは収まらない。拓馬は目をカッと見開いたまま固まっていた。「拓馬!拓馬!しっかりして!拓馬!」
母はそう叫びながら更に拓馬を抱きしめていた。


しばらくして少し落ち着いてきた。体の震えも収まってきて拓馬の頭は冷静になってきた。

本当に小学生に戻ってしまったのかもしれない・・・
何がどうなってこうなってしまったのか全くわからない。しかし自分の意識は実は五十才だなんて、この若い母に言えるわけがない。拓馬は困った。

(本当に小学生からやり直すのか・・・)
(だが自分の意識は五十才だ、父や母より長い人生を過ごしてきて両親より多くの事を知っている。まてよ、この後起こる社会の事件とか事故とかも同じように起こるのだろうか?)

(その事を予言するような事を言ったら両親に怖がられてしまうかもしれない。そんな事も言えない・・・まてまて、まだ夢の中で、もしかしたらどこかで目が覚めるかもしれない。)

(どうする? どうする? この状況ではそう簡単に混乱が収まるはずも無く、かといってどうする事も出来ず、もう少し様子を見る事にしようか? それしかないだろう。)

頭の中で考えがフル回転していた。

「拓馬!拓馬! ねぇ! どうしちゃったの?」母のけたたましい声が聞こえてきた。頭の中がグルグル回って考えている間も目をカッと見開いたままであった。
はっとして母の目を見てみた。

「たぁくまぁ~ んもぉ~ どうしたのよ~~」
母の顔が半泣きだ。その母の顔を見て申し訳ない気持ちが込み上げてきた。そうだ自分は小学1年生なのだ。小学生らしく振舞おう。

そう思い母の胸に拓馬はおでこをつけて「ごめん」と一言謝った。

「なんか変な夢を見てたみたい」
それを聞いて母は「そう? もう大丈夫? ん?」と拓馬を見つめて心配そうに言葉をかけた。

「明日の学校の準備しようね」母は優しく言うと、拓馬は「うん」とうなずいてランドセルを取りに行ったのだが、小学生の振る舞いをしながら頭の隅には自分は五十才だぞ、という意識がある。そして照れもあり複雑な心境であった。

色々な事を考えながらランドセルを開いて、予定表を見てはサクサクと必要な教科書やノートを準備し、あっという間に準備を終わらせた。

そして母を何気なく見た。あんぐりと口を開けてこちらを見ている。

(はっ! しまった)
学校初日の小学1年生がこんなにテキパキ準備など出来るわけがないではないか。

やばい・・・
「たくまぁ~ あんた凄いじゃない! もしかして天才?」
完全なる親ばか誕生の瞬間であった。

本当なら母は今年で七十五才のはずなのだが、今は若い。そしてこの楽天的な明るい性格は若い分、強烈に感じられた。

しかし悪い気はせず、騙しているという後ろめたさも少しありながら、説明できない状況で拓馬は徐々に諦めの気持ちが出始めていた。そして、もう小学生になりきって楽しもうと、気持ちが吹っ切れ始めていたのであった。



つづく・・・第四話(4/42) 思い出



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