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拓馬は思った。(小学1年生の振る舞いは思った以上に難しいぞ。)

困った。拓馬は本気で困っていた。この時代パソコンなんか無いし情報源は新聞だけ。しかしそれを読んでいるだけで不審がられてしまう。

学校の図書館に行けば本はあるが、1年生では勝手に出歩くのも難しい。家の中を見回してみても何も無い。

ここで困った拓馬は数日前の古新聞を数日分まとめて部屋へ持ち帰った。そして新聞で折り紙のように兜を折って部屋に置き、新聞で遊んでいる状況を作ってから昨日の新聞を広げて読んでいた。

そんな日が数日過ぎた頃、拓馬は学校の授業に参っていた。簡単すぎて暇過ぎて、じっとしているのが苦痛になっていた。

「せんせい! トイレ!」と言っては教室を抜け出して気晴らしをしていた。
教室では同級生のみんな、とにかく声がでかいのだ。耳に突き刺さる。それでもみんな悪気は無いので拓馬は眉毛が八の字になっていた。

元気のいい同級生達は皆、裏表の無い純粋な笑顔で話しかけてくる。しかしこちらは1年生の体で精神年齢は五十才なのだ、想像以上に苦痛な日々が続いていった。

元気のいい声が響き渡る教室の中で拓馬は考えていた。

(もし人間が輪廻転生とかで何度も生まれ変わっているという説が正しいとしたら?)

ふとそんな事を考えてみた。生まれ変わったら記憶はリセットされると言われている。やはり人生やり直すには以前の記憶を消すという事は必要な事なんじゃないか。

それにしてももし生まれ変わっているとしたら、どうして0才からでなく1年生からなのだろうか? 転生という事なら、五十才でソファーに座っていたあの自分はどうなっているのか? 

あの後自分は何らかの事体で人生が終わっていたのか? だとしたらあの後みんな大変な状態になったのだろうか? どうなっているのだろう。

やはりいくら考えても状況を理解する事は出来なかった。

<思い通りにならない>

拓馬は前に座る同級生の背中をじっと見つめたまま、色々な事を考えていた。

次の瞬間「はい岩城拓馬くん、この計算答えてください」授業に身が入っていない状況を先生に見抜かれて、先生にさされたのだ。

「たーくーまーくーん」先生がもう一度拓馬を呼んでみた。皆の視線が拓馬に集まっていた。しかし拓馬の視線は1点を見つめたままだ。隣の席の女の子が拓馬の肩をポンポンと叩いて教えてくれた。

「せんせいにさされてるよ」拓馬は はっと我に返り前を見た。教室中が爆笑している。

「はい拓馬くん この計算の答えは わかりますか」
「あ、7です」即答だった。「お~」どよめきが起こった。

「はい正解 聞いてたの?」先生が少々驚きながら聞いた。すると拓馬は「申し訳ありません、考え事してました」と言ってしまった。

(あ、しまった)うっかり出てしまうのだ。
「申し訳ありません~???」先生は驚きながら言葉を続けた。
「とても丁寧な言葉を使うのね えらいわ」

拓馬は段々とめんどくさくなっていた。時間を無駄に使っているように感じ始めていたのだ。しかし全て暴露してしまっては、それはそれで面倒な事態に発展していく事は目に見えていた。

まだ1年生になってから1週間程度しか経過していないのに、もどかしくて仕方がないのだ。教室に座っている事が苦痛の限界を超えてきた。

(もっと他の事をやりたい)そんな事を考え始めるともう止まらない。

知らないうちに貧乏ゆすりが始まっていた。カタカタカタカタ・・・・

隣の席の女の子が横目でチラチラ見ている。すると拓馬はいきなり

「あ~~~~~~~~」と叫んだ。教室中の子供達の動きが一斉に止まり、先生も視線を拓馬に向けた。拓馬は両手で頭を抱え、そしてガッと立ち上がると教室から全力疾走で脱出。そのまま廊下を走って行った

この頃は1組から12組まであり廊下は果てしなく長く、一番奥まで走って行った。

12組の前まで来るとくるりと振り返った。「はーはー」息が上がっていた。

(ん?前から何か来る)目線を上げるとそこには物凄い勢いで走ってくる先生がいた。

「拓馬くん! 授業中でしょ! 戻りなさい!」その迫力に押されて、拓馬は頭を抱えて座り込んでしまった。
そして涙が止まらない。どうしていいか自分でもわからなくなり挙動不審になってしまった。

五十才という精神年齢が、徐々に壊れ始めている事に薄々気が付いた。そして1年生の子供の思考が、五十才の心に侵食してきているという不思議な感覚を感じていたのだった。


つづく・・・第六話(6/42) 葛 藤




 

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