WS002344


拓馬はここ最近、同じ夢ばかり見るようになっていた。いつも同じ女性が出てきて、その女性の家で音楽を教えてもらっているのだ。

「あの夢の人はだれだろう?」気なっていた。拓馬の家の近くには女子高があり、いつも大勢の女子高生が歩いている。

そのようすをぼんやり見ていた拓馬はふと気が付いた。「夢の中に出てくる女性は、ここを歩いている女子高生と同じ制服を着ている」と。

「もしかして、この女子高生の中にあの夢の中に出てきた人がいたりして」なんて思ってみたが、あまりにも数が多いのでこれは見つからないか、と諦めていた。

翌朝、ガバッと拓馬は起き上がった。また同じ夢である。もうこうなったら気になって仕方がなかった。そして小学校が終わると女子高生がぞろぞろ出てくる校門の前に行き、ずっと見ていた。

ひたすら見続けた。しかしそんな夢の中の女性がいるはずも無く校門から出てくる人もまばらになった頃、諦めて帰ろうとトボトボ家路についたのだった。

それでも気になった拓馬は翌朝、少し早めに家を出て、女子高生がぞろぞろ学校へ向かう列の流れに逆らうようにその中を歩いてみた。しかし見つからない。「いるわけないわな」と呟きながら学校へ向かった。

その日の学校帰り、今度は女子高生が帰る集団の流れに逆らうようにその中を歩いた。

「いた!」夢の中に出てきた女性とそっくりだった。「本当にいる!」これはどういう事なのだろうと謎は深まったが、夢の中で名前を聞いていたから声をかけてみる事にした。

その女性の前まで走っていくと「すみません、菜緒さんですか?」とぶっきらぼうに聞いてみた。

すると「え? そうよ なぜ私の名前を知ってるの?」と返って来たものだから拓馬は感激して目がゼリーになった。

しかし、どう説明していいか分からない。知っている事をいきなり全部話すと怖がられてしまうかもしれない、頭の中がグルグル回っていた。

「あの、、、」と拓馬が言いかけて止まった。菜緒が「なぁに?」と少し中腰になり拓馬に顔を近づけた。

菜緒の目がやはり拓馬の夢の中に出てきた、あの女性であると確信が持てた。こんな不思議な事があるのだろうかと拓馬自身もびっくりした。

「あの、若宮菜緒さんですよね?」と今度ははっきり言った。「そうよぉ~ 前に会ったかしら?」と菜緒が質問してきた。

拓馬は「はい」と答えると、菜緒は「あれ~ 全然覚えてないけど どこで会った?」と首をかしげていた。

その姿に拓馬はまたドキドキした。すると拓馬の顔が真っ赤になった。菜緒はまだ中腰で首をかしげたままである。

「ゆ 夢の中です」と拓馬は小さな声で答えた。菜緒は今度は反対側に首をかしげ「夢?」と言った。

拓馬は「そう、菜緒さん僕の夢の中に毎日出てきたんです。そして若宮菜緒って名前も教えてくれたんです」女子高生から見ると完全に不思議少年である。

菜緒と一緒にいた女子高生達は「きゃー 夢の中で見た人が現れたって ロマンチッくぅ~」と大盛り上がりである。

拓馬は続けて「菜緒さん音楽大好きで家にピアノとかエレクトーンとか有りませんか?」と質問した。すると菜緒は「あるわよ それも夢の中に出てきたの?」ともう興味津々だ。

もっと拓馬の話を聞きたくなった菜緒は「ねえ 名前はなんて言うの?」と聞いてきたので「たくま 岩城拓馬です」と言うと、菜緒は「それじゃ拓馬くん、お姉さんの家に遊びに来ない?」と誘ってくれた。

「はい!」拓馬が満面の笑みを浮かべた。その顔を見た菜緒の友人たちは「やだぁ~ この子 可愛い~~~」と体をよじらせていた。

早速菜緒の家に行くことになった拓馬と菜緒は歩き始めた。そして交差点に来ると自然と菜緒の歩く方向へ曲がった拓馬を見て
「あれ? 家の場所も知ってるの?」と聞いてきた。

拓馬は「はい 夢に出てきた場所と同じならあっちですよね」と言った。この時代本当におおらかであったから女子高生達も警戒心はそれほど無く、菜緒も「正解~!」と嬉しがっていた。

家に着くと拓馬は驚愕した。「夢のまんまだ!」と玄関の前で立ち止まった。平屋で2件の小さな家が並んでいる。

拓馬は「ねえ菜緒さん こっちの家もそうだよね?」と聞くと菜緒は「そうだよ」と答えると、拓馬はその家の前で「こんにちは~」と言ってみた。

すると中から「は~い」と声がする。もう一度「こんにちは~」「は~い」拓馬は面白くて更に「こんにちは~」と言うと「は~い」と返ってくる。

拓馬はくるりと顔を菜緒の方に向けて「九官鳥だよね」と指さした。菜緒は「あっはっは~ どうして知ってるのぉ~? それも夢に出てきたぁ~?」と聞くと、拓馬は笑いながら「そうなんです」と答えると二人でゲラゲラ笑った。

「ね ね もっと詳しく教えて」と菜緒は拓馬を家に入れてくれた。やはり家の中は拓馬が夢の中で見た通りであり、何がどうなっているのか理解を超えていた。

もうこたつが出してあり、そこへ二人で座ると拓馬は夢の事を話し始めた。「この家でね、菜緒さんに音楽の事を色々教えてもらってたんだ」「その内容までは覚えていないんだけど・・・」と言葉が詰まった。

菜緒は「どうしたの?」と拓馬の顔を覗き込んだ。拓馬は「菜緒さん今十七才だよね?」と聞くと「そうよ」と言うと拓馬は「この後もずっと色々教えてもらうんだけど、、、

でね、、、菜緒さんの事大好きだったんだけど、菜緒さん二十四で結婚しちゃうんだ・・・」と下を向いた。

菜緒は「えぇぇぇ~~~~~」と驚いた。それはそうである、まだ高校2年生で十七才の女子高生に、菜緒の名前や住所、九官鳥まで言い当てている子供が二十四で結婚するとまで言っているのだ。

益々興味津々の菜緒は「ね ね 私の結婚相手はどんな人?」と質問攻撃が始まった。「ん~学校の先生という事と~ あ、苗字が 江崎だったかな」と覚えている事だけを伝えた。

菜緒はもう夢見る少女で雲の上に浮いていた。「江崎菜緒かぁ~」「先生ね~」すっかり浮き上がってしまった菜緒に拓馬は「菜緒さん」「ねぇ」「なおぉさん」と呼びかけた。

「あ!」と戻って来た菜緒と拓馬は目が合った。そして菜緒の顔が赤くなるのが見えた瞬間「ちょっとお茶入れてくるね」と菜緒は逃げるように立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。

拓馬が見た夢は細切れで、所々抜けている。この後どう展開するのかまでは分からないが、拓馬は菜緒の部屋を眺めていた。「やっぱり夢のまんまだ。不思議だな~」と独り言を言っていると「おまたせ♪」と菜緒がお茶を持ってやって来た。

なにせ将来の旦那様の事を教えてもらったのだから体中から♪が溢れていた。

「ねぇ 他に夢で見た事ってある?」と聞くが拓馬は「夢が細切れでさ よくわからないんだ。また見たら教えるよ」と答えると菜緒は「そっか~ わかった またよく夢が見れるように早く寝てね♪」と夢中になっていた。

拓馬はそんな話をしながら(前回の人生ではこの菜緒さんとは出会ってないな~ 今回はどうしてあんな夢を見て出会う事になったんだろう?)と考えていた。

お茶を一口飲んで「菜緒さん 何かピアノ弾いてよ」と話を振ってみた。

「いいわよ♪」菜緒の言葉の最後には必ず「♪」が付いてくるように機嫌がいい。そしてピアノの蓋を開いて菜緒は息を深く吸って弾き始めた。



 
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