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そして拓馬もいよいよ中学生になり丸坊主になった。革のカバンを持ち、ダボダボの制服を着て中学へ行く準備をしていた。

「てんさいたっくまっが ちゅうがっくせー♪」拓馬の母は朝から腰を振りながら変な歌を歌っている。相変わらずだ。

それでも拓馬はこの脳天気な母が大好きで、その変な歌もニコニコ笑いながら見ていた。拓馬はそんな母を見ていて、落ち着いた口調で話し始めた。

「母さん いつもありがとう」母の動きが止まった。動きが止まったまま母は拓馬をじっと見て、じわじわと顔にしわが増えていった。

目からは涙が溢れるように流れ出し、1歩2歩と前に歩き出すと小走りで拓馬に駆け寄り抱き付いた。

「そーんな事言って 朝から母さん 泣かすんじゃないわよ~」喜怒哀楽の激しい母であるが「怒」だけが抜けている母であり、反応が大げさなのだ。藤水第二中学校 入学式当日の朝の事であった。

入学式も終わり教室へ入ると拓馬は一番後ろの席になった。そして黒板の方を見ると、「お坊さんが沢山いる」と一人でクスクス笑っていた。

自分もその一人である事を忘れている。この地域の小学校から中学へ集まっていているので知らない顔も沢山あったのだが、あまり興味も無く「へぇ~」と言いながら見ていた。

「あ!」前の方に水野美沙を見つけた。(美沙だ!)拓馬は椅子に座ったままそこでガッツポーズをしていた。(やった 同じクラスだ!)もうそれから拓馬は嬉しくて嬉しくてソワソワしていた。

「岩城!」お前何ソワソワしてるんだ。静かにしなさい」と先生から注意された。クラス中の目が拓馬に集まる。美沙も振り返ってみたら拓馬を発見し「あっ!」と手を口に当てて驚いた。

拓馬はニッコッと笑うと美沙もにっこり笑った。その瞬間クラス中の目が美沙に向かった。

しゅぅ~~っと美沙はちっちゃくなってしまった。拓馬には美沙が本当に光って見えていた。

しかしほとんど会話もしたことが無く、美沙の事は何も知らない。デートしてみたいと思うのだが、それよりも音楽でやりたい事が、と考えがまとまらなかった。

そんな事など知らないクラスメイトは「おぉ?」「おぉ~?」「おぉぉぉ~?」と二人を交互に見てニヤニヤしていた。

放課後になり部活の見学会が始まった。それぞれ興味のある部活を見て歩いていたが、拓馬はやはり吹奏楽部に興味があり、見学に行っていた。

「やっぱりここだな」と決意し、入部希望を出した。中学の吹奏楽部はそれほど人気が無かったので、拓馬は大歓迎された。

水野美沙は陸上部に入部したようで、それぞれの活動になったいった。

中学の吹奏楽部へ入部した拓馬は、もう女子高の吹奏楽部へ遊びに行く時間が無くなってしまった。更に一緒に女子高で過ごしたメンバーも卒業してしまい、知り合いで残っているのは顧問の大谷先生だけであった。

そして驚くのはやはり、若宮菜緒が卒業後ヤマハ音楽教室の先生になっていた事だ。拓馬が見た夢の映像はそのまま実現しつつあった。

この頃になると拓馬の前回の人生での記憶が少し薄れてきた状態になり、細かい所が時々思い出せない事が多かった。

中学に入り驚いたのは拓馬が覚えている前回の人生と教師が同じであった事。前回の人生の中学生の頃から記憶が結構残っているのだ。

記憶の中の映像はまあ、ぼんやりしてはいるものの印象はしっかりある。中学入学当初はクラスメイトも知らない顔だと思っていたのだが、名前と声を聞いているうちに思い出してきた。

(やはり登場人物は前回の人生と同じだ)と、そんな事を考えて周囲を眺めていた。

放課後、拓馬は教室の中で教科書をざっと眺めてみたが、ほぼ理解し覚えている内容であったので、ここも楽勝だと安心した。

中学から英語の授業も始まるのだが、元々前回の人生で拓馬は英語を使う仕事をしていたのでこれも問題ない。問題があるとすればやはり体育だ。

逃げられない。体育の事を考えると気分が落ち込んでいた。「はぁ~」とため息をついて、ふと顔を上げた。その目線の先には美沙がいた。

ブルマーをはいて体操着に着替えていた。「ドキッ」(かわいい)これから部活へ行こうと準備中であった。その姿に体育の憂鬱など吹き飛んでしまい、元気をもらっていた。

この時拓馬ははっと思った。
「そう言えば前回の人生でも、天才的に勉強が出来たり、社会人になっても見事に大成功している人達を思い出していた。

あの人達ってもしかして、今世の自分と同じように何かしらの記憶を持っているのではないのか?」「そしてそれを黙っているだけではないか」と考えるようになった。

今の自分自身を見てもそれは納得できる。前回の人生でやり切れなかった事、悔いを残した事、その悔しさを覚えているから同じ思いをしたくない。そう思っているから人並み以上に頑張れるのではないだろうか、と考えるようになった。

「そうかもしれない」と思うようになると、凄い人を見る目が少し変化していた。




 
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