WS002356


山下先生が司会進行役で「それではお願いします」と声がかかると緞帳(どんちょう)が上がり会場から拍手が沸き起こっていた。

拓馬は一度会場の方を向くと、満面の笑みで深くお辞儀をした。そしてくるりと振り返り、笑顔で全員の顔を確認した。

指揮棒が振り上げられ、オープニングはルパンである。演奏が始まった。いきなりの迫力に会場の生徒たちは後ろにのけぞった。

 

少しして音に慣れてくるとカッコイイサウンドに乗って来た。そして「ジャーン」と終わるとすかさず山下先生の司会が入った。

「はいありがとうございました~ルパン三世のテーマでした」会場から「わあー」と拍手が起こり、掴みは完璧であった。

山下先生が「次の曲はですね~ 歌入りの曲です。吹奏楽では普段無いのですが本日は文化祭バージョンでお送りします」と盛り上げると、

「では水野美沙さん お願いします」と紹介した。会場から「え!」「水野?」「美沙?」「陸上部じゃなかったの?」と声が飛ぶ中、美沙は母から借りた白いスリムなドレスを着て登場した。

ヘアスタイルもおかっぱでは無く、ウェーブがかかり、イヤリングが光っていた。元々身長が大きかった美沙が、更にハイヒールを履いてきたものだから、普段見る姿とはかけ離れていた。

同級生で普段の美沙を知る人達から
「えぇ~~~~~」「綺麗~~~」
「別人~~~」と声援が上がっていた。

美沙は母から受け継いだ動じない性格が助けとなり、衣装の雰囲気も合わせて既に大人の女性の雰囲気を醸し出していた。

ゆったりした動きなどは、拓馬に教え込まれており、マイクを持つ位置、お辞儀の仕方と完璧であった。

山下先生が「では よろしくお願いします」「月のワルツ」と紹介すると、会場の一番後ろの美沙の父は立ち上がって見ていた。



大きな拍手が沸き上がり、静かに曲が始まった。美沙は完全に自分の世界に入り込んでいた。

澄み切った歌声が会場に広がると、客席は見とれていた。その様子をピアノを弾きながら拓馬は横目で見て、にんまりしていた。拓馬の後ろで輝美のオルガンが存在感を出しており、もはや中学生の舞台のレベルでは無かった。

完全に魅了された観客は、曲が終わると総立ちとなり大きな拍手が鳴りやまなかった。歌はこの1曲だけで、あとは吹奏楽の曲を数曲演奏し、緞帳(どんちょう)が下りてステージは大成功に終わった。

ステージでは皆がハイタッチしたり抱き合ったりと喜び合っていた。美沙の父と母も、楽屋へ行き、美沙と母が抱き合って喜んでいる姿を美沙の父も隣で見ていた。

拓馬が楽屋へ入って来た。拓馬を見つけた美沙は拓馬に抱き付いた。何も言わず美沙の目からは涙が溢れている。

しばらくして拓馬は美沙の両肩を持って言った「お父さんがハラハラして見てるよ」と。

美沙はくるりと顔を父の方に向けると、ニッと笑いもう一度拓馬に抱き付いた。美沙の父は諦めたように左手で後頭部をポンと叩いたのだった。

すると美沙の父が拓馬に近づいてきて
「君が岩城くんかね」と問いかけたので一度美沙を落ち着かせてから
「はい そうです お嬢さんを歌でお借りしました」と言うと美沙の母が近づいてきて

「あら いい感じの子ね で、結婚式はいつにする?」といきなり爆弾発言してきた。美沙の父が思い切り動揺した。
「ちょっ おまっ なに言ってる」美沙の母は「あはは 冗談よ~」と笑った。

拓馬の反応が気になった美沙はすぐに拓馬を見た。拓馬も気が付いて美沙と目が合ったのだが、一緒に大笑いしたのだった。

拓馬は美沙の耳元で
「美沙の母さん やるね~」と言うと美沙も拓馬の耳元で
「いつも父は母にやられっぱなしなの」と言い、顔を見合わせて笑った。

楽屋でのそんな楽しそうな雰囲気を扉の外で見ていた輝美がいた。そして輝美は廊下の壁にもたれかかって上を見た。その頬には涙が流れていたのであった。

スター

美沙は文化祭の終了後、学校ではもうスター扱いで1年2組の前には休み時間になると人だかりが出来ていた。

女子に囲まれて親衛隊のようなものも出来てしまい、男子は近づく事すら出来ない状態に美沙も困り顔であった。

その包囲網を通過できるのは男子では拓馬ただ一人であり、美沙との会話も親衛隊のメンバーが聞き耳を立てていた。

それは学校が終わり帰る時間になっても包囲網は解除されず、美沙が家に辿り着くまでガードされていた。

文化祭が終わると、直ぐに吹奏楽のコンクールが始まる。自信満々の吹奏楽部の演奏は予想通り観客と審査員を感動させ、県大会で見事金賞を受賞した。全国大会に進んだがさすがに全国の壁は厚く、入選すら出来なかった。


つづく・・・





 
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