WS2009_000024


そんな素敵な夢のような夏休みも終わり、いよいよ文化祭シーズンがやってきた。3年になると受験で皆忙しくなるため、本気で集中できるのは2年の文化祭までなのだ。ここは拓馬も気合が入っていた。新曲も増え、美沙の歌も3曲になっていた。

吹奏楽部はすっかり拓馬のバンド状態で、部員たちもそれが楽しくて本気で拓馬に付き合っていた。拓馬はステージ進行から曲の構成、分単位で流れをきめており、カンペ係りまで用意していた。そしてクラスの友人にも密かにお願いをしており、準備は着々と進んでいた。

そんな緊張した日々で疲れが出たのか、美沙が熱を出して休んでしまった。風邪が移ると困ると、拓馬は美沙の家へ行くことを美沙の母から止められていた。それでも準備することが山積みなので、皆走り回っていた。そして土曜日の練習が終了すると、美沙がいない。。。拓馬はしょんぼりしながら帰り支度をしていた。

そこへ輝美がやってきた。「ねえ岩城くん 私の家のピアノ弾いてくれない?」と言うのだ。以前からいいピアノが置いてあるとは聞いていたので、拓馬も興味があった。

(美沙もいないし、つまらないから行ってみようかな)と拓馬は考え「いいよ」と答えると、輝美の後ろから朝日が昇るかのように輝美の顔が光り輝いた。そんな嬉しそうな顔を見たら拓馬も嬉しくなり、一緒に帰ることになった。

輝美の家に到着すると、そこも意外に拓馬の家から近いことが分かった。「結構近いんだね」と言いながら玄関に入るとヨーロッパ風?と思えるような調度品が置かれ、内装の様子から拓馬は(うはっ 本当にお嬢様って感じ)と思いながら「おじゃましま~す」と上がった。

奥の方から「あら おかえり~」と女性の声。居間に通されると輝美は「母です」と紹介した。(見覚えが有る。そうだった。。。)と思いながらも、今回は違う人生だと、言い聞かせた拓馬は「始めまして 岩城拓馬です 輝美さんとは吹奏楽部で一緒にやらせてもらってます」と言うと、輝美の母は「輝美から、毎日のようにあなたの事を聞かされてるわよ」と言われた。

拓馬は(しまった 来ないほうが良かったかな?)と少し後悔したが、ピアノを見てみたかったというのもあり「いいピアノがある という事で見せてもらいに来ました」と意識をピアノへ向けようとしたのだった。

輝美の母は「あらそう~どうぞどうぞ~ゆっくりしていってくださいね~」と輝美そっくりの大きな目で言った。「こっちこっち」と輝美が拓馬の手を引っ張り、部屋へ案内された。10畳間位の部屋にグランドピアノがでーんと置かれていた。

「うはっ 自宅にグランドがあるんだ いいね~」と拓馬は驚いてみていると、輝美は赤いカバーをパッとめくると、蓋を開けて準備完了。「音量気にしないで自由に弾いていいよ」と輝美が言うと、拓馬は「お~~~」と言いながらピアノの前に座り弾き始めた。

部屋の音響もいつもと違い新鮮な響きに気分は上がっていた。拓馬は演奏の手を止め「ね 屋根少し開けていい?」と聞くと輝美は「いいよ」と。20cmほどの突き上げ棒をかませると更にクリアな音が聞こえてきて、拓馬の口角が「ん~~~」と言いながら上に上がった。

しばらく演奏して拓馬は手を鍵盤から放し、輝美の方を向くと「ほんと いい音するね~」と言うと、輝美は「でっしょ~」とつま先立ちで背伸びした。学校にいる時とは別人なほどテンションが高く、何か小動物のような可愛らしさがあった。

「コンコン」とドアがノックされ、輝美の母が「紅茶をどうぞ」と言いながら入ってきた。その後ろから物凄く体格のいい男性がズシッズシッという感じで入ってきた。その姿はプロレスラー?と思えるような雰囲気で拓馬はビビった。

物凄く低い声で「いらっしゃい 輝美の父です」と挨拶され、拓馬は「あ い 岩城 拓馬 です」と尻つぼみに声が小さくなった。そんな拓馬の様子を見て輝美は「お父さん こう見えて全然怖くないからね」とサポートしてくれたのだが、拓馬は(いや そう言っても 迫力ありすぎ)と思い、更に(こんな怖そうなお父さんから、こんな可愛い娘が生まれるなんて事があるんだ)と考えている間、拓馬は眼を見開いたまま輝美の父を見続けていた。

そしてまた低い声で「岩城くん 娘から君の事は毎日聞かされているよ」と母と同じことを言った。このプロレスラーからそんな事言われてしまったものだから拓馬は、この家に遊びに来たことを物凄く後悔していた。

続けて低い声が「演奏 聞かせてくれないか?」と部屋に響いた。拓馬はピッキーンと緊張した。「あ は はい」とぎこちなく答えると、またピアノに向かった。鍵盤に手を置いたのだが、いつもなら何も考えずに自然に手が動くのに、今回ばかりは手が動いてくれない。

拓馬の右のもみあげ辺りに汗がツーと流れた。それを見た輝美が「ほぉらぁ~ お父さぁ~ん お父さん見て緊張しちゃったじゃ~ん」と助け舟を出してくれた。するとプロレスラーが「あ、いや すまん」と声は低いのだが柔らかい雰囲気に変わり、輝美のお父さんに変化した。


つづく・・・





 
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