WS2009_000026


そして拓馬は少し落ち着いてきた。「美沙 ありがとう」そう言うと拓馬はベッドから上半身を起こした。美沙も一緒に置きあがり、「話せる?」と拓馬に問いかけてみた。拓馬は美沙の目をじっと見ながら考えた。(前世の記憶の事は絶対話せない。元々普通の人はこんな事知らない。輝美の事だけ全部話そう)そう決めた。

「実はね」ぼそっと拓馬は話し始めた。「美沙が風邪で休んでいるとき、昨日なんだけどね」「輝美の家のピアノを弾きに来ないか?と誘われたんだ」美沙は輝美が関わっているとなんとなく思っていた。

女の勘は凄い。美沙は静かに「うん」と言うと、「輝美の気持ちも知ってはいたんだけどね、美沙もいないし、輝美のピアノも興味あったし、家に行ってみたんだ」美沙は同じように微笑みながら「うんうん」と相槌をうつと「そこまでは良かったんだけど、素敵なお母さんと凄いお父さんが出てきて、輝美を宝物のように見てるんだ」

「そして輝美が純粋な目で俺を真っ直ぐ見ている、その目を見ていたらね」と言いかけた所で拓馬はまた涙が止まらなくなっていた。
「輝美の家になんて、行くんじゃなかったって。輝美の気持ちに応えてあげられないのに、気を持たせるような事をしてしまって」と言うと、美沙の目にも涙が溢れる寸前まで溜まっていて、静かに拓馬の首へ両手を回して抱きついた。

無言の時が流れていた。

美沙は拓馬の耳元で「そんな純粋なあなたが好き」と言うと、更にきつく抱きついたのだった。この日は拓馬の両親は親戚の用事があり朝から外出していて家は拓馬以外誰もいなかった。静かな時間がどの位流れたのかわからないほど抱き合ったままの二人は、美沙の言葉で動き出した。

「おなか空かない?」この言葉に拓馬も思い出したかのように「そう言えば」と言い、顔を見合わせ「ププッ」と笑った。美沙と拓馬はキッチンへ行くと美沙が「何か作るね♪」とキッチンの扉をあちこち開いて調べ始めると「あ、ホットケーキ発見!」と明るく言うその言葉に拓馬の心の曇りがパァ~ッと晴れていくのを感じて「いいね!」と元気が戻ってきたのであった。

手際よくホットケーキを作るその姿を後ろから拓馬は見ていて、ちょっと意地悪気味に「できるの~?」と聞いてみた。美沙は振り向きながら「まかせて!いつもお母さんとやってるから」とせっかく意地悪気味に言ったのに、物凄く素直に返されて、拓馬は自分が小さく見えたようで恥ずかしくなったのであった。

綺麗な焼け具合のホットケーキが出来て、「どうぞ♪」と目の前に置かれたものだから、拓馬は落ち込んだ分からの復活のギャップに天井を突き抜けて飛んでいきそうな気分になっていた。完全復活だ。二人で「おいしいね~」と言いながら食べているその状況が嬉しくて、いつもの拓馬に戻っていた。

それでも拓馬は、そんな嬉しい気持ちのずっと隅の方で、明日以降の輝美への対応の事も考えていた。ホットケーキを食べながら拓馬は美沙に「明日からも輝美とはいままで通りに接するよ」と言った。

美沙も食べながら「うん」と返事をすると、すかさず「ねぇ今日はたっぷり時間があるけど、何する?」と話題を変えてきた。聡明な女性である。「部活さぼっちゃったから、どっか遊びに行っちゃおうか」と拓馬が言うと美沙は「賛成♪」と言った。その嬉しそうな表情に拓馬は目眩がした。

ホットケーキを食べ終わると拓馬は「美沙 制服のままじゃまずいよね 着替えておいで」と言うと美沙は「うん わかった すぐ戻るね」と言って自宅へ戻って行った。元気をもらった拓馬も私服に着替えて準備をしていた。

ここでふと拓馬は考えた。普段外へ遊びになど行ったことも無いから、どこへ行っていいのか全く分からないのだ。「困ったな どこへ行こうか」と考えていると美沙が元気よく自転車に乗って「おまたせ」とやって来た。その姿を見て「!」拓馬は閃いた。

「美沙 今からちょっとお菓子とジュース持って桜公園へピクニックに行かない?」と言うと美沙は「あ~いいね~それ~」と言うので、急いでキッチンへ行ってお菓子をカバンに詰めて、水筒へジュースを入れて準備した。玄関のカギを締めて、二人で自転車を走らせて桜公園へ丘を上がって行った。

到着するとそこには9月の爽やかな風が吹いていて、子供を連れた家族が結構集まっていた。「空気が気持ちいいね」と拓馬が言うと美沙は「あの辺空いてるよ」と人の話を聞いていなかった。

今までで初めて見る美沙の開放的な雰囲気に、9月の太陽が照っていて拓馬には眩しすぎる位であった。芝生の上に大の字に横になると拓馬は空を眺めて、頭が空っぽになっていた。

そんな拓馬を見て美沙は拓馬の右腕を枕にして隣へ横になった。「気持ちいいね~」拓馬が呟くと美沙も「う~んほんと気持ちいい」と空を眺めた。

しばらくして拓馬が「グッ・・・」と言うと美沙は「ん?」と拓馬の方を見た。「腕が 痺れてきた」と拓馬が言うと美沙が「あ ごめんなさい」と頭を上げ、拓馬は右腕を左手でモミモミしていた。

そして目が合うと美沙は本当に無防備に笑った。拓馬は(いつもきれいな美沙で、笑うと本当にきれいなのだが こんな笑顔は初めて見た)と思って美沙を見続けていた。

すると美沙が「なぁに?」と言うので拓馬は「いや なんでも」と誤魔化した。「なによぉ~」と美沙がじゃれてくる。拓馬は「お、美沙が巨大なネコになっちゃった」と言うと「にゃによ~」と乗ってくる。拓馬はこのまま時間が止まれ、と思っていた。

どこに行こうとか考えた事がバカバカしくなった。どこに行っても美沙がいればどこでもいいのだ。そして、楽しい時間は超高速。夕暮れになり二人は自転車で下り坂を快調に流して帰って行った。

そして美沙の家まで一緒に自転車で走った拓馬は、美沙を無事家まで送り届け「それじゃまた明日ね」と別れを告げて自宅へ戻った。そして自分の部屋に入ると、昨日は色あせて見えた部屋が輝きを取り戻していた事に気が付いて、美沙に救われたことを実感したのであった。


つづく・・・





 
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