WS2009_000028


会場の先生方の中に、拓馬とそりが合わない宮本先生もしっかり見ていた。この先生年齢は多分五十五才位、吊り上がった眼鏡をかけていて、目つきが鋭い。風紀担当の先生なので生徒からは恐れられていた。

その先生がピアノソロが始まり、美沙の衣装がノースリーブになった瞬間立ち上がり
「ハレンチ!」と言い、「やめなさい!すぐに中止しなさい!ハレンチ!」と騒ぎ出した。

会場の生徒達も一斉に宮本先生の方を見たが、その宮本先生の周辺に座っていた先生方が「文化祭ですから」となだめるも前に出て行こうとするので男性の先生方が宮本先生の両腕を掴んで制止した。それでも暴れるので、男性の先生方は宮本先生を引きずるように体育館の外へ引きずり出していた。

そんな事など全く意に介さず、アップテンポのジャズバージョン めぐる季節が始まった。拓馬はピアノを弾きまくりである。途中のソロになると中腰になりながら弾きまくるその姿に会場は圧倒されていた。

この会場には拓馬が小学生の時、お世話になった女子高の吹奏楽部の大谷先生とその生徒も見学に来ていた。その中にはあの拓馬の夢の中に出てきて、大谷先生を紹介してくれた「若宮菜緒」も見学していた。

この拓馬のピアノソロを見ていた菜緒は、あまりの衝撃に両手で髪を掴んで持ち上げ、足を前に投げ出して、後ろへ反り返っていた。そしてピアノソロが終わると
「きゃぁぁぁぁ~~~~たくま~~~~~~」と絶叫した。菜緒の隣で見ていた大谷先生は、驚いて椅子から転げ落ちていた。

その菜緒の絶叫に負けないくらい会場からは絶叫が上がっていて、失神する生徒もいたりと大騒ぎになっていた。そして曲が終わると司会者が
「はい ありがとうございました!」と、もう声が聞こえない。
司会者はあまりの盛り上がりに、少し様子を見て、落ち着いたころを見計らって司会を進行した。

「凄かったですね~」と会場も疲れたのか、あまり反応が無かった。そして
「盛り上がった後には ステキなバラードをお聞きください。 
スイートメモリーズ どうぞ」と紹介されると、スロージャズにストリングスの音が加わって、会場はさっきまでの熱狂が嘘のように静まり返った。美沙の優しい歌声が響き渡り、会場はすっかりピンク色の空気に染まって聞き惚れていた。
 

曲が終わり、司会者の山下先生が、今度は静かな口調で「はい ありがとうございました ステキな曲でしたね」「水野美沙さん ありがとうございました 皆さん大きな拍手をお願いします」と会場を促し、美沙は手を振りながらステージを降りて行った。

「はい では次です 岩城くん 前の方へ」と拓馬を呼び出すとマイクを渡した。拓馬は「どうも」と言うと静かになった会場から「たくま~」と声が飛んだ。「ありがとうございます」と拓馬が言うと、もう雰囲気はプロのアーティストの様になっていた。

「素敵な曲でしたね~」と司会者が言うと拓馬は「はい 自分でも大好きな曲で ほら」と言って自分の左腕を前に出し、マイクを持った指で自分の左腕を指して言った。「チキン肌チキン肌」すると司会者が「鳥肌ね」と冷めたツッコミを入れた。ザワザワしながら笑い声が聞こえてきた。

「こうした曲はどうやって作ったのですか?」と質問されると
「そうですね~ ゆったりしていると不意に頭の中のラジオが鳴り出す感じですかね~」と言うと司会者が
「ほう ラジオですか」拓馬は
「そうなんです、このラジオスイッチが無いのでいつ鳴り出すか分からないんです」と言うと司会者が
「え、それじゃこのスイッチは?」と言って拓馬の胸の辺りを押す。

拓馬は「あっ」と言って、その場で膝を前に突き出してペタンと仰向けに床に張り付いてしまった。
「あっはっはっは」と会場から笑いが起こり司会者は「あっ」と言いながら上から覗き込んだ。拓馬はそのままの体制でむっくっ~と起き上がると司会者が「わぁぁぁ」とたじろいで2歩ほど後ろへ下がった。

会場からは更に笑いが起こり、拓馬は「あ~びっくりした」とひょうひょうとしていると
「驚いたのはこっちですよ」と山下先生が笑いながら拓馬に言った。拓馬は
「先生ダメですよ~僕のスイッチ切っちゃ~」と言うと会場の方を見て「ね~」と同意を求めていると、司会者がいたずら小僧のような雰囲気で

「これ、面白いな もう一回」と言って拓馬の胸を人差し指で突いた。拓馬は
「あっ だめぇ」と府抜けた声を出して、もう一度ペタンと床に張り付いた。隣で先生が拍手しながら喜んでいる。

そして戻ってこない拓馬を覗き込んで「お~い」と声をかけると拓馬は低い声で「は~い」と言いながら、むっっくぅ~と起き上がって来た。拓馬が「何してるんですか先生~」と突っ込んで、二人そろって正面を向き「失礼しました」とショートコントが終わった。

司会者がようやく元の雰囲気に戻り「失礼しました それでは次の曲をお送りします」と進行を始めた。「つい先月始まったばかりのアニメ 宇宙戦艦ヤマトのテーマを吹奏楽バージョンにアレンジしてお送りします」と紹介し、演奏が始まった。

こうして2年目の文化祭校内発表も大盛況で無事終える事が出来たのであった。
緞帳が下りて、観客の生徒たちがぞろぞろと教室へ戻っていき、ステージの上ではハイタッチしたり握手したりといい雰囲気であった。


つづく・・・





 
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