WS2009_000031


校長先生が「お~来た来た こっちへ」と誘導され、ソファーに美沙と二人で座ると、目の前の男性が名刺を取り出し「わたくし BACミュージックの佐藤と申します。同じく山本です」と名刺を渡された。拓馬と美沙は「はぁ」と名刺を受け取ると「早速ですが」とBAC佐藤が切り出した。

「水野美沙さん 弊社BACミュージックでレコードデビューしませんか?」と来た。美沙は考えてもいなかった誘いに驚いて拓馬を見た。拓馬と顔を見合わせて、美沙は「大変光栄なお話 ありがとうございます。私は岩城くんと一緒でないと嫌です」ときっぱり言った。

BAC佐藤も「はい それは承知しております。どういった形にするかは今後考えるとして、その為にお二人に来ていただいたのです」と言ってきた。すると拓馬は「ありがとうございます。でもまだ早いです。他にやりたい事いっぱいあるし、今レコード会社と契約したら縛られてしまうのでお断りさせてください」と言い放った。

今まで有力であると見た新人に断られた経験の無い佐藤は驚愕した。(こんな話断る若者がいたのか。。。)驚きながら佐藤は続けた「考えるのでは無く、断るというのですか?」と。すると拓馬は即答で「はい」と答えた。前のめりになっていた佐藤が、「ふー」と息を吐きながら後ろへもたれかかった。

その様子を真剣に見ていた校長は、目を丸くして「ほー」と言いそうな顔になっていた。

拓馬は五十才の知識を持っているのだ。ここで契約したら寝る時間も無く日本中連れまわされ、ボロボロになる事は知っていた。これ以上話が展開できなくなった佐藤は「では是非ご両親とももう一度相談して、ご検討ください」と言って校長へ丁寧に挨拶すると引き上げていった。

そして校長と拓馬、美沙と3人だけが残り、校長が「岩城くん、どうしてそうきっぱり断ったのかね?」と聞いてくるので、拓馬は「あの佐藤さんて方、最初に美沙にデビューの話を持ち掛けて、僕が一緒でないと嫌だと断ると、僕たちの形を後で考えると言っていました」

「って事は美沙は単なるアイドルとして考えているんだと分かったので」と答えると、校長は両手を前に伸ばして拍手した。校長は美沙に向かって「彼は素晴らしいね、彼に任せれば絶対安心だよ」と褒めてくれた。美沙も笑顔で大きくうなずくと、拓馬が「それじゃ僕たちも失礼します」と言って校長室を後にした。

校長も拓馬の事が大好きであり、「本当に中学生離れしてるな~」と感心しきりであった。この校長先生は拓馬達の卒業と同時、あと1年で定年になる予定である。やや細身の顔に鼈甲の眼鏡をかけて、笑うと口をすぼめて前歯が印象的、白髪ではあるがふさふさしており、いつもニコニコのほんわかした雰囲気で、手を後ろに回していつも校内をうろうろしては生徒たちに声をかけている人気者の校長である。

教室に戻りBACの話をすると、その話は瞬く間に学校中へ拡散していった。「しかも、デビューの話を断ったんだって!」という所がことさら強調されていた。その伝令を拡散した司令塔は、やはり親衛隊の信子であった。




 
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