WS002357


いよいよ放送日だ。この頃はまだ収録など無い。生放送なので放送時間より遥かに早く局入りをする。拓馬達は一旦学校へ夜明け前に集合し、バスに乗って移動した。

出演する生徒たちの親は電車で移動しスタジオの客席へ座る事になっていた。2時間ほど走り、朝日が昇りはじめた頃、到着した。生徒たちは眠いのか緊張しているのか無言であった。美沙も衣装を入れたカバンを持ち、バスを降りた。

初めて来たテレビ局に生徒たちは、首がねじ切れそうなくらいキョロキョロと周囲を見ていた。スタッフに案内されてスタジオへ入ると、天井が高い。そして準備に追われて走り回るスタッフに独特の緊張感があり、生徒達はゴクンと喉を鳴らしていた。

生放送だ、緊張してはいい演奏は出来ない。拓馬は早速みんなを集めた。そして「この前の文化祭でさ 途中で抱えられて強制退場させられた宮本先生覚えてる?」と言うと「あ~覚えてる」「うん それ見てた」「あの時の宮本先生の顔 ププッ」と言い始めた。

拓馬は「引きずられて行ったじゃん あれから先生のかかと、皮がむけちゃったみたいでバンソウコウのでかいの貼ってたんだよ 知ってた?」と言うと「あ~~だから歩き方がぎこちなかったんだ」と声が出て、「あっはっはっは」と笑った。

すると山下先生が隣から「宮本先生を抱えてった先生いるだろ 校長先生はあの二人の先生にありがとうってお礼を言っていたのに 宮本先生プンプンでさ~ 参ったよ」と追い打ちをかけると更に生徒たちは爆笑した。すっかり緊張が解けていつものいい雰囲気になった。拓馬は山下先生を見ると先生も拓馬を見ていて、二人で小さくうなずいた。

美沙は楽屋でメイクをしてもらっていた。この当時のテレビは画質がそれほど繊細では無いのだが、顔色をよく見せる為等様々な理由で、中学生でもしっかり塗っていた。顔がアップになる事もあるので、マイクを持つ手の爪も無色のネイルを塗ったりと入念である。

美沙は支度をしてもらっている間も、頭の中で何度も歌のシミュレーションを行っており、ハミングしながらリラックスしていたのだった。

ADくんと山下先生、そして拓馬と3名で進行の打ち合わせをしていた。生徒たちはスタジオセットのそれぞれの場所で準備だ。放送開始時間は11時からの番組内で紹介される。その番組のトップバッターだ。

リハーサルを行う準備が出来た頃、美沙がステージ衣装で登場した。「おぉ~~~~」思わず喚声が漏れた。拓馬が作った白のワンピースである。美沙の母から借りたハイヒールとイヤリングをして左手首に花柄の小さなスカーフが巻かれていた。

拓馬はそのスカーフを見て「いいね これ」と褒めてみると、美沙は「実はこれ さっきドアの所で引っ掻いちゃったの だから傷隠し」とペロッと舌を出した。その小さな舌に拓馬は気を失いそうになっていた。リハーサルも順調に進み、生徒達も雰囲気に徐々に慣れてきていた。

10時だ、生徒の親達がぞろぞろスタジオ入りしてきた。親達も思い切りおしゃれしている。そしてスタッフに誘導され、席に案内された。ADくんが観客の親達へ拍手のタイミングや注意事項等を大声で説明していた。

するとスタジオの入口の方が何やら騒がしくなった。AD君が「逸森さんはいりまぁ~す」と司会者が入って来た。テレビでは見慣れた顔である。会場の父兄から拍手が沸き上がった。山下先生と拓馬の所へ司会者がやってきて挨拶をかわした。とても丁寧な人であった。そしてまたスタッフと何やら打ち合わせをしながら控室へ消えていった。

この日、藤水市は午前中出歩く人があまりいなく、商店街も店の中にテレビを持ち込んでと、そわそわした雰囲気であった。

そしていよいよ番組スタート。AD君のカウントダウンが始まった。「本番5秒前!よん、さん、にぃ~」最後は無言のままキューが出された。軽妙な司会で番組が始まり、山下先生との掛け合いがあり、いい雰囲気である。そんな中拓馬達の演奏が始まり、途中で美沙が加わり、3曲はあっと言う間に終わり、無事生放送の出演は大成功であった。


つづく・・・第三十二話(32/42) 輝美の苦悩




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