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学校に戻ってからは、それは大変な日々が始まっていた。周辺の学校の生徒達も、美沙目当てで連日学校周辺に来ていた。美沙は迂闊に外出できなくなっていて、少々疲れ気味のようであった。そんな騒々しい中、学校では卒業式があり、吹奏楽部の3年生は号泣していた。

部室にはテレビ局で撮影した集合写真が大きく引き伸ばされて、壁に誇らしく飾られていた。そして新学期が始まり、拓馬達もいよいよ3年生である。吹奏楽部の入部希望者が殺到してしまい、収拾がつかなくなっていた。山下先生も希望者を断るのが苦しくて、2軍3軍とかも考えたが、楽器が全然足りない。仕方なくオーディションを行ってみたリ、と苦労していた。

拓馬も身長が伸び、170cm近くになっていた。運動を全然しない拓馬は細く、ひょろりとしていたので、同級生から「電柱が立ってる」とかからかわれていた。美沙も165cm位まで伸びてきており、時々陸上部に参加すると、顧問の先生は「もっと練習してレギュラーで出て欲しいんだけどね~」と残念がっていた。

そんな忙しい日々が過ぎ、夏になってくると、学校周辺に集まってきた人たちも、すっかりいなくなり、外出もすんなり行けるようになっていた。美沙もストレスが無くなり、元気が戻っていた。

ある日の学校の昼休み、相変わらず山下先生の軽妙なトークで校内放送がFM局化していた。美沙は拓馬がいないことに気が付いて、廊下に出てみた。

「いない どこ行ったのかな」と近くを通りかかった友人に「ねぇ 拓馬見なかった?」と聞くと「あ~吹奏楽部の部室へ行くって言ってたかな」と教えてくれたので「そうなの ありがとう」とお礼を言うと、美沙も部室へ向かった。

部室の前まで行くと、隣の控室から声が聞こえてきた。ちょっと緊張したその声は輝美だ。美沙は「はっ」として立ち止まり、思わず息を殺して聞き耳を立ててしまった。拓馬の声も聞こえてきた。そっと美沙は控え室の扉に近づくと聞き耳を立てていた。

輝美の声が聞こえてきた「どうして どうしてあれから家に来てくれないの?」と涙が混じった声で訴えていた。拓馬は「ごめんね」と一言。輝美は「拓馬が美沙の事好きなのは承知してるの でも でも 私も拓馬の事好きなの」と聞こえてきた。

しばらく沈黙が続いたが、拓馬は「ごめん」としか言わない。すすり泣くような声がしばらく聞こえてきていた。そして輝美は「ごめんなさい こんな事言うんじゃなかったわね ごめんさない もう言わないわ ごめん」と何度も謝っていた。

美沙は、ここで鉢合せしたらまずいと感じ、忍び足でその場を離れて、階段を少し降りた所にとどまっていた。するとガチャリとドアの開く音がして、パタパタパタっとスリッパの音が廊下を走って行った。美沙はまだその場でしばらく待っていた。拓馬が出てこない。

美沙は拓馬が心配になって控室に入って行った。すると拓馬は控室の椅子に座り、テーブルに肘をついて頭を抱えていた。拓馬は「はっ」として見ると、美沙が立っている事に気が付いて、驚いた顔をしていた。

美沙は静かに拓馬の隣へ座り、左手を拓馬の太ももの辺りにそっと置いた。「ごめんなさいね 聞こえちゃった」と美沙が言うと、拓馬はまた涙が溢れそうになっていた。拓馬は輝美の家に遊びに行ってしまったあの日の帰り道の事を思い出していて、苦しんでいた。

そんな様子を察知した美沙は、静かにうなずいて拓馬を見た。しかしここは学校の中、拓馬も大泣きしたい気持ちを抑えて、ぐっと堪えていた。この日、拓馬は一日落ち込んでいた。

翌日の放課後、拓馬が部室へ行くと、いきなり輝美が「よっ!遅いぞ!」と元気に声をかけてきた。「昨日は変な事言っちゃってごめん 忘れて!」と何か吹っ切れたような明るさがあった。その姿に拓馬は物凄く助けられて、元気を取り戻していたのだった。


つづく・・・第三十三話(33/42) 未経験の人生計画




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