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そんな日々が過ぎて夏休みに入った頃、拓馬の家に来客があった。拓馬は居間に呼ばれた。そこにはスーツを着た男性が1名いた。さっと名刺を取り出すと「ソローミュージックの武藤と申します」と名刺を渡された。拓馬は(またスカウトか)と少し警戒した。

ソファーに皆で座った。そこには拓馬の両親もいて武藤と4名。営業の武藤が話し始めた。「先日のBBB放送の番組拝見しました」「本当は是非弊社と専属契約をお願いしたい所なのですが、まだ十五才という事で色々ご両親もご心配でしょうから、土日だけテレビへの出演とレコード発売という契約でお考え頂ければと思っております」と控えめな内容だ。どうやら以前のBACの話を断ったという事が知られているようだ。

拓馬は考えた。拓馬の両親はハラハラして拓馬を見ている。武藤は「契約して頂ければ」と金額の条件などを並べていた。その金額を見て拓馬の母は目が点になっており、父は腕組みしたままじっと動かない。

拓馬は「あと1年待ってもらえますか?」と言った。また美沙が追い回されるのを回避し、中学時代はもっと同級生達と楽しく過ごしたいと考えた。武藤はすかさず「1年ですか~ 旬を逃すとデビューが・・・」と言うのを遮るように拓馬は

「いや、来年になって無理ならそれで構いません」ときっぱり言い切った。芸能界にまるで興味の無い感じを武藤は感じ取り「そうですか~ それは残念です。もし弊社と契約して頂けるご意思がありましたら、東京で高校も手配し、寮もありますから水野美沙さんも一緒に寮で学校に通いながらという形でお考え下さい」と言うと、

拓馬は「はい 恐縮です。ありがとうございます」としっかり返事をした。そんな大人びた会話に、武藤は「いや~しっかりした息子さんですね~」と世間話が始まった。それから30分程ほど色々話を聞いて、武藤は帰って行った。

武藤を送り出した後に居間では、拓馬の母が父の腕を掴み「ねぇ~拓馬がレコードデビューだって~どうする~ねぇ~」とゆさゆさゆすっていた。拓馬の父は自分が経営している建築資材の会社を継いで欲しいと考えていたので、拓馬が断った事に内心ほっとしてはいた。

拓馬は前回の人生の事を思い出していた。(もし前回の人生の時と同じような展開になるのであれば、建築関連はだめだ)しかし、そんな事は絶対父には言えない。でも、ニュースで流れてくる情報を見ると、前回の人生の時に見た覚えのある事が繰り返されている。拓馬は多分似たような展開になるのだろうな、と感じていたのであった。

ソローミュージックの事を美沙に伝えようと、拓馬は玄関にある電話の所へ行き、ダイヤルを回していた。「ジジジジ、ジジ、ジジジ・・・」この頃の電話はアナログ回線であった。美沙に拓馬の家での事を伝えると、美沙の所にも連絡があったと言う事だ。しかし全て拓馬に任せているからと、話を聞く事を断ったという。拓馬は一安心して、部屋に戻って行った。

今回の事から拓馬はこの先の人生について真剣に考えるようになっていた。前回の人生は普通に大学まで行かせてもらい、サラリーマンの人生を送った。「今回はどうする?音楽の道で行けるか?」これは未体験なので、拓馬にも分からない。

「まてよ、確か90年にはバブル経済が崩壊して大変な事になってたっけな」「その頃はっと」計算してみると拓馬三十一才の頃である。拓馬は可能性を色々考えて策を練っていた。

(前回の人生で後悔した事を覚えていて、今回は後悔しない為にやり直してるんだ)「よし、高校からやってみるか」拓馬は決意を固めた。翌日になり朝から美沙が拓馬の家にやって来た。拓馬は決意した事を美沙に伝えようと思ったが、いつもの部屋では無く、雰囲気を変えようと考えた。

「美沙 今日はまた あの桜公園に行こうか」と言うと「賛成!」と即答。よし、またお菓子とジュース持って行こう。と準備を始め、自転車に荷物を載せていた。玄関で拓馬の母が「気を付けてね~」と送り出してくれ、急ぎ公園へ自転車を走らせた。

公園に到着すると、今回は真夏、結構暑い。「あのベンチに行こう」と拓馬が指さした。屋根付きのベンチで、夏休みだが暑いせいかほとんど人がいなかった。美沙が「懐かしいね~」と辺りを見回しながら言うと、拓馬は「はい ジュース」」とコップへ入て手渡した。

「ありがとう」と美沙は受け取り、一口飲んだ。美沙が「ね~ 今日はどうしたの」とテーブルへ両肘をついて手の上に顎を載せている。拓馬は「うん これからどうしようかなって あのソローの人が来てから考えていたんだ」と言った。

美沙は「何か考えたの?」と聞くと拓馬は「考えたよ」「で、美沙の考えも聞きたいなって思ったんだ」と言うと美沙は「そっか」と言うと、目を細めながら拓馬の方をジッと見ていた。

そして美沙は「私はずっと拓馬についていくわ」と言って目が横線だけになっていた。拓馬の期待した通りの答えに拓馬は「うん よろしくね」「あと1年はさ、中学時代をみんなと楽しもう。そして高校も行くけど、もしその時にソローの人が いいよ って言って契約してくれたら 美沙と一緒に東京へ引っ越したいんだ」と言うと、美沙の目が大きく開いた。

「東京?」拓馬は「そうなんだ もしソローと契約出来たら東京の高校へ行って 寮に入れるんだ」と言うと、美沙は背筋がシャキーンと伸びた。「東京の高校!」「それ なんだか楽しそう」「どこでもついていくわ」と美沙は言うと、立ち上がり、両手の指を交互に絡ませて大きく背伸びした。「東京か~楽しそう」と言って芝生の上を歩きだした。その美沙の姿に真夏の太陽が当たり、拓馬には物凄く眩しかった。


 
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