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美沙は家に帰ると早速母に拓馬から言われたことを伝えた。いつも冷静な母が、これには流石に固まった。そしてしばらくすると「もうそんな年になって来たんだね~」と言うと「拓馬くんなら安心だわ、あなたの好きなように進みなさい」と母は言ってくれた。

テーブルに座って話をしていた美沙は母の両手を持ち「お母さん ありがとう」と真っすぐな目で母に言った。母は微笑みながらゆっくりうなずいた。

さて、ここからの問題は父である。気が小さい父ではあるが、それでも一応ドクターである。町の小さな病院を経営しており、美沙にはドクターと結婚し、病院を継いでもらいたいと考えていた。

美沙と母は父にどう話そうか、と作戦会議を開いていた。いきなり言うと、父が倒れるかもしれない、とか家出しちゃうかも、とか話が飛んで美沙と母は大笑いしていた。

そして夜、美沙の父が帰って来た。夕食の時母は高級なブランデーを持って来た。
母は「お疲れ様 どうぞ」とコップを渡すとカランと氷の音が響き、いい雰囲気だ。トクトクトクとブランデーを注ぐと父は一口飲んだ。そして

「今日は何かあったのか?ブランデーなんて出てくるって事は」と言いかけると母が「気にせずどうぞ」と奨めていた。しばらくは今日の出来事とか普通の会話が進んで、父もいい気分になってきていた。

すると母が切り出した。「あなた、美沙の高校の事だけどね」と言うと父は「おぉそうだな どこへ行きたいか決めたか?」と言うと母は美沙の方を見た。そして美沙は「まだ完全決定じゃないけどね」と断ったうえで「大沢学園よ」と言った。

父は「大沢学園?聞いたことないな」と言うと、美沙は「うん 東京にある学校なの」と言うと、父は口に入れようとした、おでんの大根をテーブルに落としてしまった。「あっ」と父が大根を見てから「東京~~~~??」「なぁ~んでまたそんな遠くに」と聞いてくるので美沙は

「寮があるの 拓馬くんも一緒だよ」と言った。「拓馬 あっ 東京 あっ」と動揺し始めた。そして「お前まさか!」と言うと美沙と母は同時にうなずいた。父はそのシンクロした二人を交互に見ておおよその事を悟った。

父は右手に持った箸をテーブルに置くと、ブランデーを持って「だから今日はブランデーか」と呟いて一口飲んだ。しばらく父は沈黙のまま下を向いていた。そして「拓馬くんは頭がいい。でも医者にはなってくれないだろうな」と言うとまた沈黙した。

ピクリとも動かず美沙と母は父を見つめていた。そして「わかった」「美沙の好きなようにしなさい」と言ってくれたのだ。その瞬間、美沙の目からは大量の涙が流れていた。

母もタオルで目を抑えている。父はそんな美沙を見て「もうそんな年になってきたんだな~」と母と同じ事を言うと、ブランデーを美味しそうに飲んでいた。美沙は小さな声で「お父さん ありがとう」と言うと母からタオルを借りて目を押さえた。美沙は何とか了承してもらえた事が嬉しくて涙が止まらない。いい雰囲気であった。

「あっ!」美沙の父は何かを思い出したように大きな声を出した。
「という事は、来年にはもう美沙はこの家からいなくなっちゃうのか!」美沙はタオルで目を押さえたままその隙間からチラッと父を見て、また小さく

「お父さん ゴメン」と言った。父は顔がこわばったままだ。そしてまたブランデーを一口飲むと
「そうか そうか」と徐々に声が大きくなり
「そうかー」と大きな声で言うと半泣きの表情で
「あっはっはっは そうかー あっはっは」と泣き笑いをしながら部屋を出て行ってしまった。




 
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